三回目・四回目の体側

三回目の体側は11月6日、四回目の体側は12月4日と予定通り終了した。

11月6日、この日も皆の期待の中、朝から作業が始まった。しかし、思わぬ事故は、開始後2ー30分後に起きた。
いつも通りネットを入れ追い込み、一匹ずつ取り上げ測定を始めた時、追い込まれたピラルクが一斉に狂った様に飛び跳ねた。その凄まじさは池の中に居た誰もが自分の身を守るため、ネットも何もかも放り出してしまいそうになった。その騒ぎにビックリしたのか、本来なにも関係ないはずの隣の池、また隣の池と伝わり、同様に一斉に暴れだした数分間、我々は成す術もなく呆然と見守るだけだった。お陰で、三種に分けて観察していたものが(1つは非公式)、総て混じり合ってしまった。
この混じり合ったものを元通りもどすのだが、事実上不可能、データの上だけで予測をたてながら調整していくのだが、これも大変な作業になってしまった。

現在は、各池ごとネットで区切り、混じり合う事のないようにしたが、混じり合ってしまったものについては、元通りにもならないため、来年から小型のものと大型のものに分ける事になるだろう。
このように、ピラルクが飛び跳ねるということは、今までの飼育でも何回も経験している事でありながら、まだ小さいから平気と甘く見たのが悪かった。

更に、もう一つの失敗がこの月に重なった。
それは、十分計算されたはずだった生物濾過システムに問題が出た。これもまた、池全体量に対してまだまだ個体数も少ないし、各個体も小さいから平気だ等と甘えていたが、予測を超えた成長に気を良くした飼育係がもっと大きくなれと思ったための餌のやり過ぎか、残餌が増して水質汚染を早めた。さらに、ブラジルでの本格的夏の到来。温室内の水温は一時38℃を超えた。35℃を超える日も何日も続き、汚物の腐敗、水質悪化の原因となった。気が付いてみると、池内の水のアンモニア量は8ppmを超えていた。
魚を養殖している人であれば分かると思うが、すでにこの時点で、並みの魚であれば全滅していてもおかしくない。
ともあれ、何とかせねばと、簡単に大量の水交換をすれば、その場は切り抜けられるが、それで今切り抜けたとしても、今後この実験を続けて行く上に色々な問題を引き起こす。単純にピラルクの立場に立っての大量水交換は最良策ではない。何とか根本問題を改善しなければならない。色々考え改善し更にアンモニア分解も試みた。これらの効果は即効に出るものではない。この間にアンモニア量は11,2ppmにも上昇してしまった。
更に、残餌を出さぬよう最大の注意も払った。と言うより一時的に餌止めまでも試みざるをえなかった。
また水温34℃を超えぬ様に注意を払い、その効果は12月中頃より現れ、水質が良くなりだした。更に今後のことも考え、池内の水面20%を覆う様に、浮き草を入れ、大きな効果を得た。

しかし、驚く事にこれほどの悪環境の中においても、ピラルクは一匹の死亡も出さなかった。但し、この間の成長は極端に落ちて、今後の成長においてもどの様に影響するかは今のところ不明である。

とにかく今までの成長を見てみよう。

第一グループ(A): 実験個体数50匹

8月5日
 平均体重 139,9g(最高185g 最低90g)
 平均全長 265,8mm(最高320mm 最低220mm)

9月5日
 平均体重 378,6g(最高595g 最低130g)
 平均全長 355,0mm(最高420mm 最低260mm)

10月3日
 平均体重 840,1g(最高1460g 最低145g)
 平均全長 440,5mm(最高540mm 最低270mm)

11月6日
 平均体重 1313,2g(最高1980g 最低220g)
 平均全長 514,4mm(最高610mm 最低310mm)

12月4日
 平均体重 1550,7g(最高2165g 最低250g)
 平均全長 542,5mm(最高600mm 最低330mm)


第二グループ(B): 実験個体数39匹

8月28日
 平均体重 124,5g(最高165g 最低75g)
 平均全長 265,1mm(最高300mm 最低230mm)

10月3日
 平均体重 405,9g(最高840g 最低105g)
 平均全長 354,1mm(最高460mm 最低250mm)

11月6日
 平均体重 751,2g(最高1340g 最低125g)
 平均全長 427,4mm(最高540mm 最低260mm)

12月4日
 平均体重 903,1g(最高1625g 最低170g)
 平均全長 450,5mm(最高580mm 最低290mm)


上記の成長記録を見ても判るように、11月から12月の成長が非常に悪くなっている。この間、水質の悪い中を生き抜いたピラルクの生命力には頭が下がる。この傾向は12月いっぱい続くだろうが、今後取り戻してくれるだろうか、多少心配である。

このような事は、明らかに我々の失敗であるが、この事により、ピラルクは極度の悪環境の中でも生存できると言う非公認、経験的に明らかであった事が、ここに公認の正式な記録として残る事は、不幸中の幸いとも言えるかもしれない。

水質悪化時の詳細は以下の通りである。

10月末から12月中頃にかけ、生物濾過システムの不順、更に水温上昇により、水質の悪化が激しくなり、最悪時では、透明度僅か10cm、アンモニア濃度12ppm、水温は何と38℃まで上昇。ピラルクはこのような過酷条件下で1ヶ月以上も生存を続けた。
但し、成長は極端に落ち、11月1ヶ月の成長は、

Aグループ
予測増肉量1匹当たり600g前後 実際増肉量237,5g

Bグループ
予測増肉量1匹当たり460g前後 実際増肉量151,9g

この間の増肉係数は、グループ別に見ることは出来ないが、全体としては、1,8前後。しかし、この数字はあてにならない。何故ならこの間は気付く事が出来なかったが、かなり残餌があったと思われるため、今後ピラルクを養殖しようとする人達に参考になる数字ではない。

それにしても、恐ろしい魚である。しかし、この恐ろしさを実感しているのは、我々だけではなかった。
2001年12月初旬、3日間にわたり、世界で初めて?(ブラジル国内では初)各国のピラルク研究所(研究者)、養殖者がマナウスに集まり会議が行われた。私もサンパウロ州立水産研究所での研究データ(上記のデータ)を持ち、参加して来た。その時の各地各国の研究者の発表をまとめ、次回報告するつもりである。

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