ピラルク養殖のすすめ その2

多少重複するが、ここにピラルクの養殖利点と養殖開発の重要性についてまとめる。

1、この魚種の成長は早い

 1年で10kg程に成長する淡水魚は珍しく、驚異的であると思われる。これに比較できる淡水魚としてピンタードをはじめいくつかのナマズ類が上げられるが、平均的成長で、まして小さな池に押し込めたら、この様な環境下においても成長を成し遂げるものは皆無と言ってもよいように思う。ピラルクのこの成長は他例がないと確信してよいと思う。

2、高密度養殖にて飼育可能

 ピラルクは肉食魚類であるが、性格は温厚で、非常に臆病である。長い間飼育していると、環境にも人にも良く慣れ、高密度に飼育してもストレスによる色々な障害は今のところ見つからない。どのような生物でも種によって差はあるにせよ、密度を上げて飼育すると、ストレス等により極端に生長が落ちたり、仲間同士で傷つけ合ったりする。この事によりその生物が食用として養殖向きか否かが決まる。ピラルクはこの点からしても養殖向きであろう。今後の研究によりはっきりしていくが、これほど養殖向きの魚種は、他例がないのではと予測している。

3、この魚種は、空気を直接取り入れ呼吸できるため、水中の溶存酸素がゼロになっても生存可能であり、池内に強制爆気装置等を使わず大量の魚を飼育することが可能である。

 これも、他の魚種からすると異例である。今後の研究により更にはっきりしていくであろうが、彼らの呼吸法は、20%以下がえら呼吸で80%以上を空気呼吸しているようで、水中の溶存酸素を他の生物に利用できると思われる。もし出来れば、同一空間を立体的に利用でき、さらに新しい可能性が開けると思われる。

4、この魚種を更に良く研究していくことにより、今後の魚類養殖の歴史に新たな一ページが開け、他の家畜動物のように飼育できるかもしれない。

 現実に今、飼育されているピラルクは、僅か10uほどの池で10数匹のピラルクが、1年で10kg程成長し、さらに約2年で20kg近くにまでなり、順調に成長を続けている。我々も初めての経験で他例が無いため、暗中模索の状態で、必ずしも最高の成果を得ているとは言い難いが、それでも水産養殖分野の中では驚異的な記録である。
 そのため、ついにブラジル農務省内のサンパウロ州立水産研究所が我々グループとの共同研究に乗り出し、正式にサンパウロ州内における養殖許可が下りた。現在、専用池の建設が進み完成間近である。

 この養殖形態は、日本などではさほど珍しくない。閉鎖式循環高密度養殖とでも言うか、養殖用水を生物ろ過して循環利用する方法である。そしてこの飼育方法の中で、1t当たりの水量で10〜20kgのピラルクを生産しようというのである。一般的には、これだけの生産を上げるためには、かなり大規模かつ高度なシステムと労力が必要となるが、ことピラルクに関しては、前記にあるようにピラルク自身が持つ能力があるため、ごく簡単なシステムと最小の労力でこれが可能になる。さらに、最近目覚しい開発が進んでいるバイオテクノロジーの利用による汚水処理方法として、ろ過層内のろ過材に竹炭(近年日本で注目を浴びている)を利用することにした。

 話は少々ずれるが、竹炭と聞いて「それはすばらしい。でも無茶苦茶高いから駄目だぞ。」と思われる方がほとんどであると思う。しかし、この広大なブラジルに、スケールのでかい計画を持ち、竹を何万ヘクタールも植え、ただみたいに竹炭を作り上げてしまおうと言うグループがある。この計画はかなり進んでいて、バイア州にすでに、6千ヘクタールの竹林があり、毎年、建築用その他の竹材を生産され、何万トンもの竹炭を作るための、竹焼き釜の用意が開始されている。この計画に歩調を合わせるように、ピラルク養殖(ピラルクに限らず全ての養殖)のろ過装置(水質浄化)が考えられ、開発が進み、我々のグループの養殖も実現に向かって大きく一歩前進できている。(竹に関する情報は、近日中に別途このサイトで発表される予定である。)
話のずれついでにもう少し続けると、ピラルク養殖中にわずかではあるが排出される水を隣接されたレタス畑の潅水に利用したところ、このレタスの成長はすこぶる良くなった。更にろ過材として使用した竹炭を畑の中に敷き込むことにより3倍近い成長の差が見られた。この事実から、自然農法を研究する人々により本格的な実験が始められようとしている。

 このようなことで、今は単にピラルクの養殖にとどまらず、ピラルクを中心(?)に、その廻りのすべての自然環境の浄化を含んだ、エコロジーの研究へと広がりつつある。

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