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名前 Cris 村上(ペンネーム)
住所 サンパウロ州 サンパウロ市

「ブラジル日系社会」

 一世の手から二世の日系世代の手にすべてが受け継がれていく

ということは自然の流れであり、また、しなければいけない事と

して誰もが認識しているのではないだろうか。しかし、現実はど

うだろうか?この二十年近く、コロニアの諸団体、会社等の引き

継ぎの様子をうかがっていると関係者以外の人間でも首をひねり

たくなるような出来事ばかりだ。

 例えば、日伯学園の設立。一つの学校を建てるのに何十年かか

るのか私は知りたい。以前はもうすぐか、もうすぐかと楽しみに

その学園の竣工式を待ちながら、子供が出来たら通わせようと夢

など見ていたが、その子はもうすでに小学生になってしまった。

孫の代まで待たなければいけないというのだろうか。どうもこの

ままでは夢で終わってしまいそうな気もしないではない。よく聞

いてみると、建設地や資金繰りのことでまだ揉めているというで

はないか。一体どうなっているんだろう。日系社会各世代の団結

力の無さ、それぞれの世代のを共通項を見出し妥協していくとい

う姿勢の欠如を思わざるをえない。

 首脳部に決断力、リーダーシップが欠けているのではないか。

二十一世紀を目の前にして一体何を考えているのだろうか。世代

間の相違については言うまでもないが、それだけではない、何か

しっくり行っていないところがある。個人的な問題なのであろう

か、団体の問題なのであろうか。戦略の問題なのであろうか、単

なる個人個人の我ままなのであろうか。いずれにしても、各団体

の首脳部の人達には、選挙を通して選ばれた、会員や市民の代表

者としての責任を再認識して頂きたい。その責任と言うのは単な

る「やればいい」ではなく、これからの日系社会に調和と発展を

齎すような計画をたとえどんなに時間がかかっても提示して行く

ということである。

 どんなに複雑で面倒な事柄でも解決を望めば、必ず道は見えて

くると私は信じている。今、誰もが自己中心的な考え方を捨て、

少しずつ譲らなければ、このブラジル日系社会の将来は真暗にな

ってしまう。

 こんな時に必要なのはおそらく「調節できる」そんな人物なの

であろう。カルドーゾ政権は最近、諸政党の調節役となっていた

二人の優秀な政治家(セルジオ・モッタとルイス・エドワルド・

マガリャエス)を相次いで失ったためにカルドーゾ大統領自身の

再選さえ危ぶまれている。もしかしたら、この日系社会も同じよ

うな事態に陥っているのかもしれない。

 とにかくこのままでは一世の人達が今まで一生懸命やってきた

その意図と言うか、考え方と言うか、苦労も何もかもすべてが水

の泡になりかねない。彼らが蓄積し、継続しようとするものを無

視することは、即ち、私達後続世代もその本質や本分を失い、や

がては滅びてしまうということではないだろうか。

 時間はどんどん過ぎて行く。早く手段を考え、実行しなければ

取り返しのつかない事態になってしまうに違いない。いや、すで

に私達はその事態の真っ只中にいるのかもしれない。つい五年程

前、ブラジル日系社会の代表的な企業であったコチア産業組合は

経営不振のため買収され、移民九十年祭を迎える今年、あの南米

銀行もやはり経営不振のためスダメリス銀行の傘下に入ることが

発表された。「これはどうもおかしい、変だ」と誰もが思う事態

なのである。

 リーダー諸氏はこの事態についてどう思っているのであろうか

何も思わずただ自分のエゴを満たすのに精一杯なのであろうか。

 ブラジル日系社会はこの危機の時代を無事うまく乗り越えるこ

とができるだろうか。これからの世代のためにブラジル日系社会

なりの土台や筋道を造っておくべきではないか。私達現役の者に

とって課題として残されるのは「次の世代に尊敬され、恥ずかし

くない経営の継続」ではないか。心配でタイムマシンを使って二

十年後の日系社会を覗いてみたい気分だ。

Cris 村上

ご本人の希望により住所などは公開いたしません。