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名前 安東守子
住所 サンパウロ州 マウア市
生年月日 1920年5月14日
Eメール osamueki@nethall.com.br

「暴かれた真実」

                 ストリーの大要

 谷崎沙耶香と明日香は双子の姉妹だった。二人の母親谷崎

良子には、ブラジルに嫁いだ里子という姉がいた。

 谷崎良子は、夫と共に満蒙開拓団に加わり渡満して、現地

で長男と、明日香、沙耶香と名ずけた双子の女児を生んで平

和な生活をしていたが、その幸福も日本の敗戦と共に破れロ

シヤ兵の魔手を逃れて必死の逃亡の末、日本に引き上げてき

たが、引き上げ船の船中で夫に死別し、幼い三人の子供を連

れて故郷広島に帰ってきたが、そこで見たものは焦土と化し

た故郷の姿だった。

 肉親も家も失った良子が、生きるための苦難からようやく

自分を見詰められるころ、広島の街にもぼつぼつ復興の兆し

が見えていた。
 その頃、沙耶香と明日香は七才になっていた。姉の沙耶香

は母親の良子に似て、勝ち気で子供ながら貧乏の口惜しさを

度々口にして、母を悲しませたが、妹の明日香は優しい性格

の子供だった。 二人の入学が足元に迫っているのに、何も

してやれない生活の苦しさに、良子は子供たちの寝顔をみて

涙に咽ぷばかりだった。

 そんなときに、良子の元に一通の航空便が届いた、それは

プラジルに住むたった一人の姉、上条里子からだった。姉の

里子は、花嫁移民として嫁いだので、姉の夫上条勉は未知の

人だった。まもなく姉夫婦の訪問を受けた良子は、これが貧

しいがゆえに移民妻として嫁がねばならなかった姉だろうか

?と眼を見張るほど豪華な見成りと富む者の風格があった。

 姉の夫上条勉は、荘然としている義妹良子に、プラジルと

いう国は勇気さえあれば宝石でも砂金でも採掘できる国であ

る。自分はその仕事をして、一躍千金を手にした。そして現

在は、サンパウロ州のマリリヤ市という街で洋品店をしてい

るが、そんな店は退屈しのぎで、金利で遊びくらしてかるが

、唯ひとつ不足なのは、子供のない寂しさだといった。優し

い性格の里子は、あまりにも惨めな妹の境遇に「よく頑張っ

てきたね」とおなじ言葉を繰り返し泣くばかりだった。明日

香は母の背に隠れてはにかんでいたが、沙耶香は瞳をきらき

ら輝かせて、大人の会話に耳を傾けていた。

 上条勉は、広島の街に平屋を買い与えたうえに、良子親子

が耐乏生活をしなくても良い金額を与える代わりに、明日香

を養女にくれないかと申し出た。むろん良子は堅く辞退した

が、学校にも行かせてやれない現在の境遇を思い、姉の懇願

もあって、さんざん考えた末、沙耶香なら気性も勝っている

からといったが、上条勉は明日香をのぞんだ。

 別離の日、空港で母や兄の勇が泣いて入る中で、渇いた眼

で沙耶香が言った言葉は「うんと贅沢するのよ」という大人

がハットする言葉だった。

 あれから十二年、上条明日香は恵まれた生活と養父母の愛

に育まれて、十九才の美しい女子大生になっていた。

 明日香には同じ町内で幼馴染みの親友、松川道子と学友坂

上涼子、市川雪子という三人の仲のよいクラスメイトがいた

。学生生活最後の思いでに、四人でゴールデン・ウイークを

カンポス・ド・ジョルドン高原から、マンチケイラ山脈まで

制覇しようという、無謀な相談がまとまり、実行することに

なった。その結果明日香一人が遭難したのだった。

 上条夫婦は狂ったように捜査費用を惜しみなく使ったが、

明日香の死体は発見できなかった。もちろん明日香の遭難の

ようすは、日本の親元に詳細に知らされた。叔母夫婦の傷心

の知らせと、遭難当時明日香が学友四人と写した写真が同封

してあった。その写真をみた瞬間、沙耶香は無謀な計画を描

いたのだった。

 それは、あまりにも自分と酷似している妹明日香になり、

時期をみて渡伯し、明日香がマンチケーラ深山で仲間とはぐ

れ、方向も分からない山中をさまよっていたとき、原始人の

ような男に助けられて、その家族と一緒に暮らしていたが、

彼等の油断を伺って必死で逃亡したという口述で、明日香と

名乗って一年後くらいにその計画を実行に移そうと密かに堅

く決心したのだった。

 そして待望の一年が過ぎた。沙耶香は母と兄に仕事でしば

らく旅に出ると皆げたままブラジルに渡った。彼女が最初に

訪れたのは、明日香の親友松川道子の処だったが、道子は明

日香だという確証をもってこない限り信じないといって追い

帰された。

 沙耶香が恐れたのは、敏感な母がなにごとかを察知して、

上条家に沙耶香の訪問を問い合わせはしまいか?という不安

だった。彼女は焦燥に追い立てられるように、最後の難関で

ある上条家に挑戦するべく、パウリスタ線マリリヤ市行きの

バスに乗った。その頃、松川道子の知らせで、坂上涼子と市

川雪子の三人は相談した結果、道子が一同に変わって真相を

確かめに上条家に行くことになった。双生児とはいえ、まっ

たく何もかも酷似している沙耶香を見破ることは困難である

。上条夫婦と親友道子の前に現れた沙耶香を別人だと仮面を

剥ぐ人はだれか?ミステリアスな後編はどのように展開して

いくのだろうか?

                                          つづく