ピラルク養殖会議に参加した

2001年12月10・11・12日にINBRAFA(ブラジル国立農林畜産研究所)主催でマナウス市にて国内初のピラルク養殖会議が行われた。ブラジル国内各地はもとより海外ペルー、ヴェネズエラ、の国立研究所からの参加者も加わり私もサンパウロ州立研究所として参加して来た。

初日10日と11日午前中までで各地の研究者・養殖者の発表、その後、養殖部門と生理生態部門の2グループに別れて研究会が行われ、私は養殖部門に参加する事になった。3日目はこの会議で皆の注目を浴びた養殖場の見学が急遽予定に組まれた。

何とこのときである、このページを読まれた方なら記憶にあると思うが、私の所で3ヶ月研修して本物(野生)のピラルクを見てくると言ってアマゾンに旅立った二葉春樹青年がジャングル巡りから帰ってマナウスの1泊50円にも満たないド汚いホテルで生き延びていた。東京のもやしっ子が真っ黒に日焼けして髪の毛も伸び放題そこいらの山猿に毛を生やしたように、しかしギラギラと輝いて私の泊まっているホテルに現れた。私にとって何と感動的だったろうか。彼はもうすぐペルーとの国境に向かい旅立たねばブラジル不法滞在にてアマゾンの動物だけでなく警察からも追われる身になるところだった。この会議があと2・3日遅れていれば会うこともなかっただろう。この事が幸か不幸かは彼の今後の人生で徐々に答えが出るだろうが、とりあえず感動した。

加工されたピラルクの肉
この感動に便乗してかなりあつかましい事だが最終日の養殖場見学の許可を、私の弟子と言う事で取り立てた。そのため彼も世界でも最大最新級の養殖場で50kgを越える何千匹のピラルクを飼育している大池から、約二千匹ずつ入った6面の生け簀養殖、100kgを越える親魚を一つがいずつ入れた親魚池、ピラルクの餌を作る工場、製品加工所等を見学出来た。間違いなく日本に住む日本人ではピラルクの事をここまで見た唯一の人物であるだろう。彼に連絡して感動やら詳しい情報を聞いて欲しい。

話はかなり外れてしまった。この会議での注目された事について話していこう。

1)ピラルクと言う魚種が如何に養殖魚として優れているか、各試験場、養殖場の今までのデータを紹介しながら話し合った。これについては、参加者全員が十分知っている事だが、個々のデータを持ち寄ることで再確認したと言う事もある。それは、成長が早い(一年で10kg以上になる)・飼料効率が良い(今回の最良発表では個体重3kgまで1、3・7kgまで1、5と言う記録も発表された)・酸欠に強い・高密度養殖に強い(水質については我々の実験データ以外は発表されなかった)。

2)現在まで生餌以外食べないと思われていたが、初期において訓練すれば、その後は、何でも食べるようになる事が明らかになり、その訓練方法について、各研究所で苦労していろいろな方法が発表された。基本的には、どの餌付けでも同様だが、丹念に根気よく続ける事に集約されるのだが、孵化直後の稚魚期から訓練すれば、体長5cm程にまで成長した時には、完全に餌付けできているとのことだが、この件については、さほど詳しいデータは何も発表されず、経験的な話だけで終わった。そして、これについて論じ合うだけの我々のデータは全く無い(と言うのも我々の所では、孵化直後の稚魚の入手が出来ない為、実験不可能である)。

親魚を一つがいずつ入れた小型の土池
3)人工孵化について、最も注目すべき事の一つであるが、マナウス近郊の養殖会社(エコ・ペスカ)が2001年始めに2万粒の受精卵の捕獲に成功したと言う発表がなされた。
同社の発表によると、この成功に当たり使用された親魚は、特別許可を取った天然物で年齢は定かでないが、どれも体長2m、体重100kg程のものである。同社では一つがいずつ小型の土池に入れ、産卵を待った。途中何回かホルモン剤等で産卵促進を計ったが効果はなかったとのことである。面白い事に雌雄が同じ程度の大きさであると雄が雌を殺してしまう。その為、常に大型の雌に小型の雄でつがいを組ませなければならないとの事であった。また、この間に親は必死に卵や稚魚を守り体当たりして来ると言う話は、単なる寓話なのか、長い間養殖された物は慣れてしまい、その様な事がおきないのか、この養殖場の技師の話では、簡単に卵を手で取れたとの事であった。(この時発表されたエコ・ペスカ社の話は、私個人的には十分信用出来る物ではない。理由として、これだけの発表でありながら、受精卵・孵化直後の稚魚・その後の成長等の写真・スケッチ・詳しいデータは何一つなく、質問にも曖昧な答えで応じている。養殖場内の何処を見ても孵化場、孵化設備らしき物は見当たらなかった。企業秘密として厳重に隠されているのか、全く不明である。)

人工湖とは思えない巨大さ
生魚(解凍物)を餌として与えている
4)生け簀養殖(今回の養殖部門の最大の発表となった)について、これもエコ・ペスカ社が公共の研究所協力にて推進された企画で、最終日の養殖場見学会でその全貌がはっきりした。上記で紹介した養殖場である。大池と言うより大きな人造湖と言う感じの湖に、主として3歳魚50kgを越える何千匹ものピラルクが飼育されている。2日に一度2・3t程の生魚(解凍物)を餌として与えている。勿論これだけの餌では十分では無いだろう。残りは天然飼料に頼っていると思われる。餌を与える時になると、あの広い湖にいるピラルクが皆、集まり群がって来る。そして、群がったピラルクは重なる様にして餌に飛びつく。これは何とも壮観な光景だ。これが彼らの言う親魚池であり、各池に一つがいずつ入れられている、とのことだが、確認できなかった。更に雌雄の差は判らないと言うのに、どうして雌雄一つがいをいれるのか。産卵期になると雄が赤さを増すと言う。その時の雌雄を捕獲してくるのだろう。特別の許可を貰い親魚を捕獲して産卵させた為、親の年齢は不明であると発表している。また、数年前、ペルーのピラルク研究者フェルナンド博士は、動物園内に飼育されていた20歳程のピラルクの自然産卵を確認したものの、採卵は非常に危険(親が興奮していて)であったため行わず、体長7cm程に成長した稚魚を3000匹程取り上げるのに成功したと話していた。その他、現地の漁師の話等を総合しても、今回の人工孵化成功の話は、そのまま全面的に信用しづらい疑問点が多い様に私は思う。

生け簀全景
肥育用生け簀
今回の話の中心になるだろう生け簀養殖場設備である。肥育用生け簀は大きさ10X10X4m(水深は3、5m)水容積350t。この中に現在(12月12日)平均体重5kg程のピラルクが2000匹以上飼育されている。何と現在で10t以上になる。今年(2001年)始めに、一つの生け簀から23tのピラルクを取り上げた。その時のデータは、肥育用生け簀に平均500g(生後4〜5ヶ月程)物を入れ、14ヶ月の飼育にて平均体重14kg(約2000匹)を取り上げている。
何と信じがたい記録であり、この事実が教えてくれる事は多い。体重14kgと言うと体長1mを優に超える。それが1u当たり20匹成長し続ける。それも、最終的には1ヶ月で各個体は2kg以上増加する事になる。水深が3、5mあるとしても、こんな所にこんなにも押し込められて尚平常に成長し続けていた。十分にピラルクのことを知っているつもりの私もゾーッとするほどの驚異を感じた。この事は今回の会議に参加した多くの研究員達をも驚嘆させ言葉を失わせただろう。
しかしこの大記録には、良い事ばかりでは無い。この裏には、背筋がゾーッとする恐ろしさが隠されていると思うのは私だけだろうか。それはこのページの始めのころに書いた私の脳裏をかすめた幻覚のような恐れが現実になってしまう。

僅か100uの生け簀面積の中23tのピラルクを生産してしまう(これは今回の成績で、研究員達は更に向上させることが出来ると語っている)。だが、残餌、糞尿等はどうなるのだろう。現在の養豚場、養鶏場の糞尿等を無処理のまま撒き散らしたらどうなるだろう。ちょっと前、無計画のまま、生産を上げるためマングローブを開発しエビ養殖して東南アジアの海を汚染したあの現実は何だったのだろう。

20世紀を生きた我々が自らの生活向上のため、気づかず又は良かれと思って行って来た開発・技術向上の中の幾つかは、大変な間違いや我々の大きな身勝手等があった事に気づき始めているのではないだろうか。上記したピラルク生け簀養殖の輝かしい成果もこのままの状態で、広大なアマゾン大河のなかに放たれ、大量生産競争がスタートしたら、短期間の内にアマゾン流域は汚染され、死に絶えるかもしれない。これは、何とか早いうちに考え、食い止めなければならない。そして同時に我々が開発している閉鎖循環式高密度養殖の確立を急がなければならない。我々の方法であれば殆どの養殖用水が生物濾過され再利用される。僅かに出た汚物・使用後の生物濾過濾材を隣接の畑に敷き込む事で畑の活性化に役立つだろう。そして、私の夢でもあるこの方法でピラルクを養殖する事により食用ピラルク生産で生活向上がはかられ、さらに隣接する畑・土地が活性化し、化学肥料・農薬漬けで砂漠化している大地を救える等と夢を見る。(勿論、無農薬農業を可能にする等と大それた事は今回の実験では踏み込んでないし、我々だけの能力では、これを立証する事は出来ず、農業の専門家の協力が必要である事は十分承知している。否、もうすでにそちらの方面で御努力されている方々と協力できるならば幸いであると考える。)

更に蛇足的かも知れぬが、ピラルクの生け簀養殖であればその設定場所は熱帯地域の十分に水量のある所に限られる。しかし、我々の方法が完成されればその設定は世界中どこでも可能であり、現在不毛の地になりつつある所でも僅かな水があれば、かなりのピラルク生産が可能であり、その周りの土地が蘇る。誇大妄想と思われるかも知れないが、この考えを元にこのページを作成して来たし、21世紀の養殖魚種であり今までの養殖概念を変える魚であるという信念は持ち続けている。
しかし、この信念については、今の実験が終了して公式のデータを発表した後に、その実験結果を持って、更に力を込めて書き綴るつもりであったしそれからでも遅くないと考えていたが、ここに来て状況が変化してきた。我々の考えるシステムでのピラルク養殖方法を一日でも早く完成させ、多くの人々に発表し、この養殖を促進させなければならない。
その為には、今後多くの協賛者と共に、この輪をひろめて行きたいと願うのだが、現在の我々だけの能力では、如何にしてこの輪を広げ、多くの人に発表出来るような立派な実験研究を続行できるか、その方法に悩んでいる。このページを読まれた方の中に良い案を知る人がいたら是非協力してほしい。

水族館で見掛けた体長3m体重200kgの巨体と筆者
確かにピラルクと言う魚は多くの人が気付きつつあるように、養殖魚として非常に優れた特質を持つ、それを単に過去の養殖概念で垂れ流し的方法で生産を上げる事に専念したなら、大変な事になり自然破壊に拍車をかける事になってしまうと私は叫び、今回のページを閉じたい。


次回は、延び延びになっている5ヶ月6ヶ月の体側結果を発表の予定。
更に、6月にはいよいよ我々の養殖ピラルクの試食会を行う事が決定されたのでその報告も行います。

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