ピラルク養殖のすすめ その1


前記した ピラルクの紹介文にて この魚のあらましが解ったかと思う、実際には今の所 この魚に付いては、それほど詳しくは 解っていない。

そこで 現在わかっている事と 私の今までの経験を書き加えながら なぜこの魚が  21世紀を 開くすばらしい魚種であると感じているかを 説明して行きたい。

話は 多少前後するが 1998年始めブラジルで行われた、南北アメリカ淡水魚養殖国際会議の中で、ピラルク養殖の将来性を 非常に高く評価した発表がなされた。その時私も「そうだ, だから 今我々はサンパウロでピラルク養殖の実験.研究をしている 近じか本格的に養殖を始めるぞ。」と言ったら、多くの人に笑われた その理由は 熱帯地アマゾンの大魚を サンパウロで養殖するなど 愚かな事だ 絶対にサンパウロの冬場を生き抜く事など出来ない。と言うものだった。当時 私も実験を始めて 1年半ぐらいしか経っていなく いろいろな面で失敗ばかりしていたので 何も言えずに悔しい思いをした。

後に詳しく書くが、彼らの考える養殖と 私の目指す養殖の方法が全く違うため この件についての議論は無意味である,ともあれ、この国際会議の 半年程後 前記もしたが 米国資本とブラジル養殖会社の共同でマナウス近くに本格的ピラルク養殖場を作る大企画が発表された また他にも幾つかの大型企画が アマゾン流域で持たれるようになった。つい最近では ベネゼーラのカラカス研究局からI.I.A.P.(ペルー国立アマゾン開発局)。F.A.O(国連食料農業機関)との協賛で1999年6月 新しくピラルク養殖手引書が発行され 現在ピラルクの養殖を求める人は多くなりつつある 彼らの多くが 注目しているのは、ピラルクの持つ成長の速さ、味の良さ等であろう。

 実際白身のこの魚は 小骨も無く 癖も無い肉でどのような料理にも合うだろうし、親離れした後の稚魚から1年程で10kg程の大魚に育つ 現在 現地では高価な料理として観光客達に食べられている ところがその養殖は 今のところ あまりかんばしくなく 低迷である。その理由は、第一に非常に新しいもので良く解っていないと言う事だろうがもう一つ稚魚の大量生産技術が確立していない事も確かである。 しかし最大の理由は  どうもその養殖方法その物にあるように私は思える。

現在 行われている養殖方法の多くは、いかにもブラジルらしく、広い池に餌になる小魚を繁殖しておきその中にピラルクの稚魚を入れ大きく成るのを待つと言う何の手間もかからず 非常に合理的で自然の道理にも合っている また近年注目を浴びる自然農法 自然牧畜法?等の感知からしても理想的とも思われるが ことピラルクの養殖では ピラルクの持つ特性を完全に無視して居るし だいたいそれを養殖と言えるか?言ったとしてその生産量は非常に低いしこの方法で肉食魚を買う等最悪の養殖方法であると 私は強調したい。更に言うなら この方法で養殖が始まりどんどん売れれば必ず その生産を上げるためその池の構造もシステムもそのままにしてただ単に餌を投下し始めるだろう 当然養殖池内は 汚染され 次々にエスカレートしって行ったら 周囲の河を汚染し公害を撒き散らし アマゾンの水域が死に絶えるかもしれないなどと バカゲタような事をも悩み考えてしまう。 しかしこんな問題を考え合わせても このピラルクの養殖方法をうまくすれば、21世紀を開く大変な養殖になると硬く信じている。

では、21世紀を開く、ピラルク養殖 その方法とは いかなる物か?その話に 入る前にもう一度 自然界のピラルクについて観て行きたい、更に 私がこの養殖に駆り立てられ必死に成って来ている 幾つかの体験をも話てみたい。

自然界のピラルクは、しつこい様だが1億年以上を生き抜いている古代魚である 人類の歴史の中でこの魚が大繁殖して困った等と言う記録はどこにも無い、まあ大繁殖するような種であれば1億年の生き抜くようなことも無いかも知れない 逆に50年程前 乱獲して減少するこの種を増殖保護しようとして他の湖沼に移植したが成功していない、あの乱獲時代、ベレン港に連日休み無しに 10トンほどのピラルクが荷揚げされた、と聞いて  ビックリするが、良く考えると 平均40−50kgのピラルク10トンと言てもたかだか200匹程度 あれほど広いアマゾン水域で毎日200匹取ったからその数年後に漁獲量が半減して10年後には10分の1 そして現在は幻の魚 良く考えるとやはり不思議な気がする。さらに肉食魚である とは言ても 獰猛で他の魚動物に襲い掛かり肉をちぎり仲間で食べてしまうような事は無い、口に入る程の小魚を一飲みしてしまうだけだある。性格は非常に温和で あれだけの巨体 小魚を追って追って食べる訳でもなく 物陰に隠れて襲う訳でもない何故ならこの魚は約10分に一度程は 直接空気を吸う為浮上する そうしないと窒息してしまうのである まるで クジラの様な本当に魚なのだろうかと思われる性格を持つ魚である。

こうして考えると この魚は 太古の昔からウヨウヨと居た訳でなく 表層近くをゆったりと 泳ぎながら近くに居る小魚を食べていた こうなると彼らの居た水域は かなり豊かに小魚がいないと あれだけの巨体が維持出来ないように思える そこで私の脳裏から太古の昔から 豊かな自然の中ひっそりと、しかし堂々とゆっくり泳ぎまわる彼らの姿が離れない しかし1億年もの間彼らの廻りには常に豊かな自然が満ち満ちていたのだろうか,山あり、谷あり 厳しい中も潜り抜けたに違いない あの堂々とした殿様の様に温和なピラルクに ギリギリの中を耐え忍ぶ事が出来ただろうか?

そこで 私の一つの体験を話したい 実にこれにて私がこの魚に夢中になってしまった。

それは、5年程前の事、当時エビ養殖に失敗して無一文になっていた私の所に昔の養殖仲間の一人 丹羽義和と言う男が「えらい魚を見てきたぞ」とマナウスから帰ってきた彼が熱く語り出したのが ピラルクだった。彼の話はこうだ マナウス住人の日系人の裏庭にある四畳半ほどの池に50kgは超えるピラルクが2匹泳いでいたと言う事だ 水深僅か80cm程たかだか4t程の水の中合計100kg程の魚が生きている。

 幼魚の時からもう7,8年飼っているとの事で良く慣れて切り身の魚を食べていた。「オイオイお前も養殖者だろう素人をだますような話に オレが乗るとでも思うのか?」と言う感じであった、だいたい7,8年で50kgに成るには 年間10kg近くその池で増えていなければ成らない まさかブタじゃあるまえし、魚はただ飯さえやれば太るものじゃないぜ 更に言うなら4トンにも満たない水の中に100kgを超える魚を何年も飼い続ける為の装置と来たら大変な物だぞ そんな事も無しに飼っていると言うのは、非常にバカゲタ話だと笑いたくなった。

しかしこの男うそを言うような男では無いし 彼も養殖者(蛇足に成るがこの男こそ20年以上前このブラジルで始めて、オニテナガエビの人工孵化に成功した男である) 彼が素人で無い事は確かだし この熱の入れ様はと その時から私はこの魚の虜に成り調べ始めた 調べれば調べるほど この魚の持つ能力をフルに出してあげれば 無限の可能性があるのでは、思い始めていた。

そうなると もう何としてもこの魚を実際に養殖実験したくなった、そうは言っても 当時 経済的にどん底 どうにも可能性が無く グズグズして人の話や文献を漁っているだけだった しかし そうすればするほど 夢が広がり もう後も先も考えずに どんなに小さくてもいい 実際に始めようと思い 小さな水槽実験のような物から 始めすで 4年目に入ろうとしている 今では 幾つかの 楕円型のコンクリートタンク(約13u)にて 細々と、しかし確実に進んで来ている まだまだ未完成であり今後に期待しているのだが今まで経験した事だけでも確信を持って この魚は いかなる環境の中も 耐え、忍び、生き延びる、たとえ餌が無くても、水質が汚れヘドロ化しても、水中に酸素が無くなっても、どんな所に押し込められても、いかなる時でも、いかなる場においても、うろたえる事無く、堂々と優雅に、1億年を生き延びる 素晴らしい魚であり この習性に助けてもらえるならば そして それをフルに活用する事が出来たなら、人類にとって21世紀を開く大変な養殖魚種に 成り得ると はっきり確信を持って言える。
長々しい前置きになったが 次号からいよいよ本題に入る。

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