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名前 佐藤 喜久江
住所 ブラジリア連邦区 ブラジリア市

「蛍の光」

 貧しい暮らしと言っても、ブラジル人の中には「蛍の光」や「窓の雪」等と言う

境遇で勉強したと言う偉人は一人もいない。そもそも、ブラジルの社会と文化は、

植民者としてのポルトガル人、先住民族であるインディオ、そして奴隷労働力とし

てのアフリカ黒人の三つの異なった文化の接触によって形成された。

 そんなわけで偉人と仰ぐ純ブラジル人はいない。まして「蛍の光」「窓の雪」な

ど、苦労して学歴を積んだ偉人などいなかったと言う事である。所謂、学問といえ

ば、金持ちや軍人の子弟達の趣味の一つに見られていたのかも知れない。

 国家制定が奴隷制度に始まっているため、家庭内の教育と言えば主として、命じ

る立場を見て育ったから、自分で何かを成そうとはしなかった。子供の頃から仕事

と言うものは奴隷の成すもので、自分達はこの人達を管理するだけでよいと、その

様に思って育ったものだから、一枚の紙片が落ちていても、自分が拾う事はせずし

て、拾うように命じる事しか出来ない存在に育ったのではないかと想像する。何故

かと言えば、その様な伝統を受け継いだブラジルの人達が「自分達は掃除婦を雇っ

ているのだから」と言ってわざわざゴミを落としているのを見てそう感じたからで

ある。

 学問は金持ちや軍人の子弟に限られているもの、と誤った思考を持っていたとは

限らないし、貧乏人は学ぶ事を知らなかったとも思えない。尤も、下級の人を学ば

せない理由があったのだと思う。「下級の者が自分達より多くを知る事を恐れた」

それが事実であったのではないだろうか。現在、或る部分の政治家や、幹部が、下

級の者が自分より偉くなるのを恐れているように。

 しかし、現代の若人の行動を見ていると、父兄が移民の子弟であるか、ブラジル

人、つまり先に述べた、三種の異なった文化の接触によって形成された民族の子弟

であるかが分かる。移民の子弟は、中には貧しい人もいるが、曖昧な生活をしてい

る人は見られない。どこかに誇りを持って、正しく歩んでいるからである。

 社会のトップに立っている人達の多くは移民の子弟である。ブラジル民族の子弟

は自分の努力や苦労で現在の位置に行き着いた人は数少ない。その中の多くは、親

譲りの位置と言っても過言ではない。しかし時代は変わりつつある。三世、四世と

もなれば、民族意識も薄れて行くから、今後、この新しい世代の若人が、祖先を尊

重し、自分達の文化を保存して行くだろうかは知る由もない。

佐藤 喜久江(Kikue Sato)

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