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名前 渡辺 悦子
住所 パラー州 ベレン市
生年月日 1935年5月25日

「ベレンに生きる」

 ブラジルは北東の地、ベレン市とトメアス郡に住んで、かれこれ

40年の歳月を経ようとしております。

 トメヤスは日本人移住地としてはパラー州最大のものであり、胡

椒の生産地として最盛期にはその名をとどろかせたものでした。

 この移住の歳月40年は、むしろ苦闘時代が多くて慙愧に堪えない

のですが、この苦境を俳句に托したものも多く、今日では懐かしく

すら思われて、達観できるようにもなってきております。

 俳句でご紹介することに致します。


花胡椒やや整いし墾家かな

山家はや眠りのかまえ雨季夕焼

万緑や讃美歌こもる小さき堂

鳴き終えて蜩と知る静かさよ

少年と犬だけの道草枯るる

わが子みなブラジレイロよ独立祭

アマゾンの片隅にあり独立祭

ツクルイへの街道筋や乾季砂塵

半月や壊れ食器を掃き出せる

猿の死の鎖そのまま雨季深む

爛々と山猫よぎる月の道

三月の日向日向に獣皮干す

車禍の犬埋めしところに蛍の火

レモン酒農政不信の気炎あぐ

気の強さは次女の取り柄よ火蛾を打つ

寒星や消してなるまじ夫の息

夫を呼ぶ病棟寒くこだまして

喪に服す椰子は潮風の音たてて

悲しめば穂草の波に諫めらる

稻光けわしき世相面に出て

鈴虫に小康苦斗の四十路果つ

鰯曇躓 きてより道きまる

雨季深む一灯暗く残し寝る

ウルブーの啄みあたり暗くする

決断を促して去る蜂雀

年迫る老犬はただ目をつむる

零の多き正札ばかり師走街

遠い月やはりさびしい一人の身

一嘆き猩々花は痩せて咲く

のどの渇きは心の渇きか新茶飲む

生き難き世にピラニアの如き人

夜霧の灯わが生きおるは何故に

雨季曇り祖国に未だ病母あり

吊床に深く沈みてネグラ病む

自分との戦いの日々月まぶし

パラーの地はただ平坦にして夏葎

ハンカチをただたたみいて聞き流す

芽木光る教師委嘱状ふところに

雨季寒の晩学の灯点しけり

耐え忍ぶことにも慣れて椰子嵐

復活祭無罪放免のごと犬走る

太き葉のフルータパンや天仰ぐ

星流る何と挫折の多きこと

トンボ翔ぶ第二の故郷となる大地

月一つ故郷二つとなりにけり

渡辺 悦子(Etsuko Watanabe)

Rua Timbiras, 1375, apt1201, Belem, Para, Brasil
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